2007年10月 連れて帰らないで

2007年10月7日 夕方

山の斜面に、犬小屋、コンクリートの地面、運動場が1セットになってそれが5階層くらいある段々畑の階段を上がっていき3層目を超えたくらいのところで脇の階段から犬小屋の前の通路に入り、通りすがりのケージに入っている犬に軒並み吠えられながら奥の方へ進んでいき犬小屋の切れ目のところにさしあたり足を止めました。

案内されたゲージの中に数頭の小さいビーグルがうじゃっとおり、こちらの近づく気配に気づいたようで、にわかにゴソゴソゴソっと動き出しました。近づいていくにつれそれが3頭であるということがはっきりわかり、子犬たちはそのうちだんだん盛り上がってきてゲージの壁によじ登るようなしぐさを見せたりその場をくるくる回ってみたり、まるで僕を選んでとアピールしてきているようなにぎやかな雰囲気になりました。

ただ、お気に入りの子だけはその波に乗り切れずに2頭の後を追って動き回っていました。それにはこちらにアピールするような意図は全く感じられず、ただ動き回っている2頭の後に必死でついてこうとしているだけに見えました。

この動画の通りです。



ブリーダーのお兄さんはこの子たちが8月21日に生まれたこと、目当ての子は一番最後に出てきた子である事などいろいろ説明をしてくれていたと思います。

妻は私の少し前に立ってゲージの中を愛おしそうなやわらかいまなざしで覗き込んでお目当ての子を追っていました。そしてその口元がもうすでに決意を固めていたと感じました。

「この子でええねんな」

「後悔せえへんな」

矢継ぎ早の口調で問いただして迷いを引き出そうとした僕はとても意地悪だったと思います。

レンタカーなので動物は載せられないことを告げ、引き取る場合の運搬方法についてブリーダーのお兄さんに尋ねました。「飛行機」と「トラック」がありどちらも小さい子には負担が大きいので途中で亡くなってしまうこともある。と説明されたような気がします。

瞬間的に「途中で亡くなってしまうようなやわな子ならうちに来ると面倒を見る僕たちが大変になる。」と考えた僕は邪悪そのものです。


ブリーダーのお兄さんにも「はるばる遠くから来たのでレンタカーであっても車で連れて帰るほうがよい」と説得されしばらくの思案の末に納得しました。

妻は小踊りして喜びを表しましたが僕はマンションに引き続きこれでルール違反2つ目だなと自分の意思の軟弱さを軽く責めました。

話の間もずっと妻はお気に入りの子を目で追っていたのですが、しばらくすると「ミント」とその子に遠慮がちにそそぐように声をかけていました。


お気に入りの子は2頭とは対照的にお兄さんたちの後ろで私たちに目を合わせることなく小さくなって伏し目がちにこちらをうかがっていました。ずっとここで暮らしていきたいと思っているんだろうか、もしかしてこの子は僕たちとの相性があまりよくないのかな?と一抹の不安を感じていました。


「連れて帰らないで。。。」と聞こえた気がしました。


まさか、当日は連れて帰るつもりもなかったので犬を飼うにあたり必要なものなど一切は自宅に帰ってもありません。連れて帰って一晩は段ボールの中で過ごせたとして、翌日僕はいつも通りの仕事なのでホームセンターに行くことは考えられず。何なら一週間ミントに段ボールの中に入っていてもらうことを想像すると若干忍びなく思われ犬舎の近くでホームセンターを探し購入してくるとお兄さんに告げ二人で急いで車にもどりました。

お兄さんはその間にお気に入りの子を事務所に運んでおくから戻ってきたら事務所に立ち寄るように言ってくれました。

カーナビでホームセンターを検索しました。

「ここから30分だって」

「田舎だしそんなもんだろう」

といってホームセンターを目指しました。

山道を下りもう日が暮れかけた丘の上の少し開けた新興住宅地の中にナビに案内されたホームセンターを見つけ飛び込んで手当たり次第に購入しました。

ゲージや水飲み、防臭マット、、、、etc

ほんと目に付くもの手当たり次第に買いました。

(今思うとその時に購入した備品は慌てて購入した割には結構正解だったようで現役で活躍中のものも多々あります。)


急いで戻らなきゃブリーダーさんが帰ってしまう。僕のほうが焦っていました。



犬舎に戻ると事務所にの奥にあるピンクの柵のケージの中にミントがポツンと入っていました。僕らが近寄ってもうれしそうなそぶりも見せずにじっとしていました。震えていたようにも見受けられました。


事務所のテーブルで育て方やしつけについて健康管理、ワクチンのこと保険のこと、譲渡にかかるお金のこと血統書のことをひとしきり説明を受けましたがもうはじめて聞く情報量が多すぎて訳がわからず言われるまま指差される必要な選択肢を選択し必要な書類にサインとハンコを押しました。

(BLOG書きながらあの時ハンコ持って行ってたんだと思うと自分でびっくりします。)


すべての手続きが終わったのち初めて僕はその子を抱きました。人生で犬を抱くなんてことは初めてだったかも記憶しています。(ペットショップでも触れもしなかったので。。。)

予想より少し冷めた手触りで、小さくてか細い手や足は少しでも雑に扱うと掌の上で壊れそうで、この子が本当に大きく成長していくんだろうかという不安が大きくなりました。

ぬいぐるみなんかとは明らかに異なる小さくもずっしりとした感触がありました。

私の腕の中で逃れようとするでもなく居心地が悪そうにムズムズしているこの子に「ミント」「ミント」と妻は何度も声をそそいで頭をなでたり口もとに手を近づけで自分の匂いを嗅がせるような仕草をしていました。